コピーライターの秋山晶さん、アートディレクターの細谷巌さんを筆頭に、広告業界のキラ星たちが在籍してきたプロダクション、ライトパブリシティ(以下、ライト)。このサラブレッド集団の中で、朝倉道宏さんはインディーズを標榜しながらユニークな取り組みを続けてきた名物プロデューサーです。従来からのマス媒体だけでなく、さまざまなメディアを縦横無尽に行き来する朝倉さんの仕事ぶりに迫ります。

第1話
まわりとは異なる道を探しながらやってきた。

サラブレッド集団におけるインディーズとして。

─ライトにおいて朝倉さんはユニーク立ち位置にいるそうですね。

弊社の代表取締役CEOでありコピーライターの秋山晶からも「朝倉はインディーズだよな」と言われたのですが、王道を歩めないのは、今に始まった話ではありません。さかのぼって考えると、中学や高校の頃に、勉強やスポーツができた人は、それだけで女の子にモテたわけですが、何も目立った才能がない僕なんかは、常に人がいない場所で自分をアピールするしかありませんでした。いまだにそのときの感覚が抜けていません。
……ほんと王道は無理ですね。身につけるものでもオシャレ過ぎるものは気恥ずかしくて拒否反応がある。そういった気質が根本なのです。

─広告業界でライトといえば、どちらかというと王道の立ち位置だと思いますが。

たしかに優秀な人が大勢いる会社です。だからこそ、そういった人たちとは異なることをやらないと埋もれてしまう。もともと僕はライトに転職する前は、イベントプランナーをやっていたのですが、転職活動をしていたときに記念受験したのがライトでした。勉強はからきし苦手なのに筆記試験があってひどく落ちこんでいたものの、なぜか面接には呼んでもらえました。そしてなぜか内定。後から聞くと「君はテストの点数はひどかったけど、面接での受け答えが面白かったから入れたんだ」との話でした。

 

地方競馬で大活躍した後に中央競馬に登場し、有名なサラブレッドをバンバン抜き去ったオグリキャップという馬をご存知ですか? オグリキャップの姿にみんなが惹きつけられたように、サラブレッドではない自分も、サラブレッド集団のライトで懸命に取り組んで輝きたい。そんな風に面接で語ったのです。インディペンデントとして頑張る、ということですかね。そもそも競馬という趣味が、すでに全然ライトらしくないのですけど(笑)。

─入社後は、どういったお仕事に携わってきたのでしょうか。

入社して最初の2年は、会社から与えられたクルマ関係の仕事を昼夜問わずやっていましたが、あるときその仕事がパタッと終わったのです。そこからは「自分の給料くらいは自分で稼がなければ」と思って、バンバン電話営業をするようになりました。当時から、ライトで電話営業をするような人はほかにいなかったから「変なやつがいるぞ」「なんでそんな面倒なことをやってるのだ?」と思われていたみたいです。

僕のような自分に自信がないタイプは、相当泥臭くやらないと優秀な人には簡単に負けてしまいます。だからこそライトにいる優秀なプロデューサーと同じことをするのではなく、誰もやらない電話での飛び込み営業をやることで存在感をアピールしてきたつもりです。

クラレの「ミラバケッソ」が一躍話題に。

─飛び込みで獲得されたクライアントには、どんな企業がありますか?

僕の代表的な仕事に、クラレさんのプロジェクトがあります。最初は僕がクラレさんの新聞広告を目にして「素敵な広告だけど少しIQが高い、もう少しフレンドリーだともっと良いのに」「一般の人が見ても、もう少し楽しい印象だといいのに」と感じたのがはじまりです。ちょうど他のBtoB企業の広告に3年ほど携わって、企業イメージをガラッと変えるという成功体験があったので、BtoB企業の仕事に面白さを感じていた時期でした。

─そこで電話を手にアプローチされたわけですね。

ですね。初の面会で「BtoC向けに何かやりませんか」と提案したものの、すぐには実現に至りませんでした。あのときは、化学メーカーの「化ける」という言葉をポジティブに使いたいと提案したのです。よく高校球児を「あの子、将来化けるよ」って言いますよね? 同じく「化ける」をキーワードとしたキャンペーンです。提案から1年以上が経ってから、テレビCMのコンペへの参加を要請されました。そこでコンセプトとして「未来に化ける新素材」が生まれます。それをより効果的に伝えるためにクリエイティブディレクターが「ミラバケッソ」と略したコピーを生み出しました。

─この不思議な言葉を、アルパカが連呼するユニークなCMでしたよね。

正確にはアルパカが言うのは2年目からで、初年度は「成海璃子さんがミラバケッソと言っている不思議な集団に出会う」というストーリーでした。そのときにミラバケッソ自体はある程度広まったのですが「ミラバケッソ=クラレ」が十分には世に広まらなかったので、2年目からアルパカにミラバケッソと言わせて、アルパカを「クラレちゃん」と名付けたのです。これによって一気にクラレの認知度は高まりました。

─朝倉さんにとってクラレの仕事はどういう位置づけでしょうか。

僕にとっては代表作のひとつだと思っています。誰かに自分のことを紹介していただく際にも「ミラバケッソをやっている朝倉」と言ってもらえると話が早いし、どんなタイプの仕事が得意な人なのかわかりやすい。

とはいえ、「化ける」という言葉を使うことや「新素材は未来に化ける」を提案したのは僕ではあっても、それを「未来に化ける新素材」「ミラバケッソ」にアレンジしたのはライトのクリエイターたちです。プロデューサーである僕の役割としては、CMや交通広告、Webサイトなど利用するメディアについて考えたり、出演者や制作にかける予算の配分をしたりと、制作の手前の段階で戦略を立てるところまで。決して僕ひとりの仕事ではありません。常にそんな風に感じています。

(企画:池田和助 写真:榊智朗 取材:立古和智)

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朝倉道宏

株式会社ライトパブリシティ取締役執行役員、プロデューサー、メディアプロデューサー、クリエイティブディレクター。1972年生まれ。
イベント会社でのプランナーを経て、 広告制作会社ライトパブリシティに入社。外食、食品、化粧品、化学会社など幅広い業種のクライアントと向き合ってきた。近年、複雑化する広告コミュニケーションにおいて、クライアントの課題を解決するべく、フレキシブルでバラエティに富んだ広告戦略を形にするスペシャリスト。

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