資生堂で宣伝・デザインに携わりながら、さまざまなブランドのアートディレクションを手がけてきた成田久さんは、個人のアートディレクターとして、またアーティストとしても活躍してきました。
さまざまな役割を軽やかに行き来する成田さんの思考に迫ります。

第1話
資生堂のアートディレクターとして。

スターとともにシンデレラを創りたい

─まず資生堂へ入社された経緯について教えてください。

大学院2年目のときに、資生堂が募集していることを知りました。当時は博士課程に進んで作家活動を続けようと思っていたくらいですから、就職活動はしていませんでしたが、資生堂のことだけは気になったのです。学生時代から演劇なんかが好きで、舞台衣装やコスチュームを創っていたことや、コンセプチュアルな衣装を着たアイドルが歌番組に登場するのを観るのが子どものころから好きだったこととも関係があって、キラキラした華やかな世界観を生み出すことに興味があったのです。それをスターの人たちと手がけるとしたら資生堂だな、と。要は「資生堂だったら、やりたいことができる」「シンデレラを創れる」と思ったのです。ただ当時は今とは違って「就職したら終わり」みたいな風潮が作家志向の人たちの間では強かったため、かなり葛藤もありましたけどね(笑)。

─アートディレクターの仕事として「シンデレラを創る」というのは少し変わっていますよね。

たしかに。僕はグラフィックデザイナーでも「タイポグラフィ命」というタイプではありません。もちろん文字は大切ですが、もっと全体的なことを考えるのが好き。「エビちゃんだったら、こういうイメージだと、みんながもっとハッピーになる」とか。そもそも自分が担当するブランドでは、モデルさんを隅々まで良くして世に出したい。そうすることで、お客様はもちろんブランドの関係者、モデルさんご自身、モデル事務所さんにも喜んでもらいたい。

─近年手がけたブランドについて教えていただけますか。

比較的大きな仕事では「TSUBAKI」のリニューアル。イメージを一新するにあたってはキャスティングも大事ですが、モデルの人たちが「何をするのか」と「どういうイメージにするのか」はもっと大事です。「スターが登場すれば売れる」というほど単純なものではありません。むしろスターにそぐわないことは絶対にさせたくないですね。

─TSUBAKIに関しては、福山雅治さんが女性の髪を洗うシーンがありました。

いろんな企画を出しましたが「丸っきり変えたい」というオーダーだったので、女性にとってすごくリッチな体験として「素敵な男性が髪を洗ってくれる」をやりたいと思ったのです。これについては、とあるドラマでそういったシーンを見かけたことがきっかけとなりました。その企画に決まった後は、世界中からキャスティングをしたのですが、結果として福山さん、杏さん、鈴木京香さん、三吉彩花さんに登場していただくことになりました。

─資生堂のブランドでも超メジャーな「TSUBAKI」を手がける一方、同じく成田さんが手がけられているブランドには美白飲料水「ピュアホワイト」があります。

最近すごく活躍している萬波ユカさんをモデルに起用しました。そうと決まったのは彼女を初めて紹介された数時間後というまさかの急展開。この商品ではモデルを起用するのは初めてでしたので、当時フレッシュな印象の強かった彼女が適任だと思ったのです。商品のピュアなイメージと、出てきたばかりの彼女のピュアさ。これもピッタリでした。これから育っていくブランドのときには、これからの人と一緒に盛り上がっていくのもいいじゃないですか。萬波さんとともに、ピュアホワイトも成長できたら嬉しい。同じく資生堂のいろんなブランドをステップにしながら、徐々にメジャーになっていくモデルさんが世の中にはいますが、そういうのを目にすると嬉しいですよね。

「売る=ラブ♥」だから。

─入社当初に思っていた通りのことをやれていますか?

「最先端で、おしゃれなことがやりたい」と思って入社したものの、当時は視野が狭かったですね。単に「素敵な作品を作れればいい」と思っていたのは大間違いで、資生堂のブランドに必要な表現でなければ何の意味もありません。そこには自分の美学を押しつけたりはしません。会社で手がけるものは「作品」とは呼ばないですし、自分が会社に合わせるのがあたりまえ。それは割り切りではありません。自分のなかにある、いろんな役割のなかのひとつを演じている気分です。

─少し話がそれますが、買い手とブランド(商品)が出会う場としての店舗におけるプロモーションの重要性などについて、成田さんのお考えをお聞かせいただけますか。

言うまでもなく、商品を売る上で売り場は一番大切な場所のひとつです。だから細かなところを含め隅々までチェ

ックします。なるべく目立つようにして、パッと見で伝わることを重視するから文字も大きめ。つまり「売る」がすべてということ。資生堂で学んだ一番のことは「売る=ラブ♥」です。売れているものは愛されている。デザイン業界的にかっこいいデザインは世の中にたくさんあるし、それも好きだけど、僕の仕事において目的とされていることはそれではありません。けれども意外とみんな買ってくれています。だから自分としては手がけていてストレスがありません。

ほかのアートディレクターがどうしているのかは知りませんが、僕は商品があって、モデルがいて、CMがあって、Webサイトがあって、店頭があって、と全部を結びつけて全体的に考えるほうだと思います。
ある人は「成田君、それはクリエイティブディレクターの領域だね」と言います。そう、たしかに僕はアートディレクターとクリエイティブディレクターの持ち場の区分けをあまりわかっていないのかも。今にはじまった話ではないんですけどね(笑)。

(企画:池田和助 写真:榊智朗 取材:立古和智)

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成田久

アーティスト、アートディレクター。
1997年多摩美術大学卒業。
1999年東京藝術大学大学院修了。
2013年キュキュキュカンパニー設立 。
2013年NHK大河ドラマ「八重の桜」、NHK東北キャンペーン「ただいま、東北♥」、尾上松也主催歌舞伎「挑む」2013~15年、劇団はえぎわ「ハエのように舞い 牛は笑う」「飛ぶひと」「ゴードンとドーソン」、矢柴俊博一人芝居「ヤッシーナイト2」、ハナエCDジャケット&ミュージックビデオ、ウィリアムス浩子CDジャケットなどのアートディレクションを手がける。展覧会も多数開催。台湾にて個展「衣殖」展開催。「高円宮殿下記念 ローザンヌ・ガラ 2013」、「佐々木三夏バレエアカデミーPerformance2014-15」衣装制作。
雑誌「装苑」にて演劇レビュー連載中。株式会社資生堂 宣伝・デザイン部に所属。

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キュキュキュカンパニー

御徒町に成田久の作品が「見られる! 着られる! 買える! 仕事のオーダーもできる!」販売所兼仕事場、キュキュキュカンパニーを開店中。オリジナルの作品、グッズ、バッグ、書籍などを販売。イラスト、コスチューム、アートディレクションなどのオーダー窓口としてもオープン中。ショップにて「Q画伯の似顔絵師」を不定期に開催中。またイベント「HUB TOKYOvol.7、 vol.8」、「FOR座REST 2015 福島」、「東北・ネパール支援チャリティイベントHope and Love Day2015」に出張似顔絵師として参加。お写真での似顔オーダーも随時受付中。
http://www.cuecuecuecompany.com/

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