広告コミュニケーションの世界で多くの受賞実績があり、「明日の広告」などの著書で、この分野の先導的な役割を担っている佐藤尚之(さとなお)さん。新刊『ファンベース(ちくま新書)』を上梓したさとなおさんに、これからのコミュニケーションのあり方について聞きました。

第3話
「つながり」こそが人生を豊かに

4番目の仲間を作る場所として始めた「4th」。

─現在さとなおさんは、コミュニティの運営にも力を注がれています。

2011年に電通を辞めて、しばらく経ってみて自分が成長していないことに焦りを感じるようになりました。
「このままではマズい」と思って立ち上げたのが「さとなおオープンラボ」です。
これは経歴もライフステージも異なるさまざまな人たちにボクの知見を共有し、ともに刺激しあう場です。

人に話をするためには勉強をしますし、考えをまとめたりもします。特にラボに来る人たちは仕事上で真剣に悩んでいる人が多いので、こっちも真剣に取り組みます。これが自分の成長と更新につながりました。
実際、ラボの仲間たちと一緒に考えたことは、前著『明日のプランニング』(講談社現代新書)、そして新刊『ファンベース』の土台にもなりました。

ラボの仲間と親密になるうちに高まってきたのが「コミュニティ」への関心です。わりとハードなラボなので、みんな戦友みたいに仲良くなるんですよ。じゃ、このつながりを元に自分でも一度コミュニティを運営してみようかと思って始めたのが「4th」になります。

さとなおオープンラボよりもフラットな場にしたかったので僕の名前は外し、「家族」「友達」「仕事仲間」につづく「目的を持った仲間」が集う4番目のコミュニティという意味を込めて「4th」としました。

─具体的にはどのようなコミュニティなのでしょうか?

メンバーは全員、さとなおオープンラボの卒業生です。
卒業するには全10回のカリキュラムを完走しなければなりません。
各カリキュラムが長い時には4〜5時間におよぶうえに、毎週のように課題提出が求められるから、なかなかハードです(笑)。
だからこそ、それをともに乗り越えてきたという感覚が生まれてくるのでメンバー間には強い一体感があると思います。

主な活動は週に数回開催される「夜ラボ」です。
メンバーの誰かが講師役を務めることもあれば、外部からゲスト講師を招くこともあります。さらには「トライブ」という部活動のようなものも盛んにおこなわれていますし、もっと小規模な単位でのメンバー同士の飲み会はほとんど毎日のように催されています。

ちょっと他にはないような、強固なコミュニティに育ってきました。

コミュニティマネジメントの経験はファンベースにも活かせる。

—コミュニティを運営してみて得られたことは?

「どうすればコミュニティがうまく回るか」のコツが得られました。
僕がいないと成り立たないコミュニティでは長続きしないので、僕はなるべく裏方に徹しています。

また、お互いを名前ではなくあだ名で呼び合うことで、肩書きに影響されないフラットな人間関係が築けることもわかりました。
トライブのような小さな集まりがあることもコミュニティ全体の結束をより強固にします。
そういう小さな気づきはたくさんありますね。

コミュニティを安定させるには関係性が濃すぎても薄すぎてもダメです。
どれくらいの距離感をとるか。どれくらいの頻度で声をかけるか。そういった細かな調整は日常です。このあたりの感覚はファンベースと共通していると思います。
コミュニティ運営で身につけたノウハウは、ファンベースにも活かしていけそうです。

—今後、4thをどれくらいの規模にしていきたいでしょうか?

現時点でメンバーは350人くらいですが、500人くらいまでは増やしてもいいと思っています。
パレートの法則で言えば、上位2割のアクティブなメンバーが100人いるくらいがちょうどいいかな、と。
でも実際にその人数を超えたら、もう少し増やそうと思っているかもしれません。

僕にとってコミュニティは、人生で一番大切なもの。

─広告の仕事やコミュニティ運営を経て、今後さとなおさんは どんな活動をしていきたいでしょうか?

とにかく長く4thを維持していきたいです。
僕にとって金銭的な恩恵はあまりありません(笑)が、今や僕の人生で一番大切なものになりつつあります。

─コミュニティをそこまで大切に思うのはぜでしょうか?

「つながり」がなければ、人は幸せになれないからです。
アメリカのハーバード大学の研究チームが75年に渡って実施した調査でも、「つながり」を持っている人が一番健康で、一番長生きだということが判明しました。

酒を飲まない、タバコを吸わない、運動をする、お金持ちになるとかいうことよりも とにかく「つながり」が充実していた人こそが健康かつ長生きだったそうです。

僕自身も「つながり」の大切さを実感したのは4thの運営を始めてからで、それまでは孤独が好きでした。趣味もひとりでできるものばかりです。
だからコミュニティの仲間たちとつながることで、こんなにも人生が豊かになるなんて思ってもみませんでした。

僕は人生に不可欠な「つながり」をコミュニティの運営を通じて得ることができました。
4thの仲間、彼らと過ごした時間、そして彼らとの未来。
これらがコミュニティを運営することで僕が手に入れた何よりの報酬なのですよね。

弊社の大塚も「4th」コミュニティに参加。
目的を持った仲間たちと楽しみながら、さまざまな勉強や活動に取り組んでいる。

企画:大塚正樹 森谷太一 佐藤伶奈 写真:榊智朗 取材:立古和智 福地敦

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佐藤尚之(さとなお) さん

コミュニケーション・ディレクター、株式会社ツナグ代表、株式会社4th代表、大阪芸術大学客員教授、東京大学大学院非常勤講師。
1985年株式会社電通入社。マス広告、ネット広告、コミュニケーション・デザインに携わる。2011年3月に独立し株式会社ツナグを設立。広告コミュニケーションの枠にとらわれない幅広い仕事に取り組む。また株式会社4th代表としてコミュニティを運営。著書は『明日の広告』『明日のコミュニケーション』『明日のプランニング』など多数。
最新著書『ファンベース:支持され、愛され、長く売れ続けるために(ちくま新書)』

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