男前の農家が育てた米を直販する「トラ男」、古民家をシェアする「シェアビレッジ」。これらユニークな事業で地方の活性化に取り組んできたのが武田昌大さんです。「秋田が嫌いだった」という氏が、なぜ地方の課題と向き合うようになったのか。いかにして数々の斬新なアイデアを生み出したのか。これら秘密に迫ります。

第1話
故郷が失われるという危機感に突き動かされた

かつての僕にとって、秋田は「何もない場所」だった。

─昔から、地元の秋田に強い思い入れがあったのですか?

むしろ地元が嫌いでした。だから高校を卒業すると関西の大学に進み、就職先にも東京のゲーム会社を選びます。あの頃の僕にとって秋田は「何もない退屈な場所」でした。そんな僕の考えが変わったのは24歳のときです。久しぶりに帰省した際に、駅前の光景にショックを受けました。人気のないガランとした通り。絵に描いたようなシャッター街。人口減少を肌で感じた瞬間です。このままでは文字通り故郷がなくなってしまう。この危機感をきっかけとして、地元のために何ができるのかを真剣に考え始めました。

─具体的にはどんな行動を取ったのでしょうか?

初めは自分に何ができるのかわかりませんでしたが、何かしたいという一心で秋田の農産物を販売するマルシェなどを手伝うようになります。とても新鮮な体験で充実感もありました。その一方で、ITやデジタルの力を使って継続的に農産物を販売する仕組みを作りたいとも考えるようになりました。けれどもこのときの僕は農業についてはまったくの素人。そこで農業の抱える問題を探る調査に着手しました。

「男前」が作ったおいしいお米を全国に届けたい

─具体的にはどうやって調査したのですか?

土日になると秋田に足を運び、農作業をしている人に片っ端から声をかけ、質問をぶつけました。農作業を手伝いながら、ときには自宅に招かれお酒を酌み交わしながら、さまざまなお話を伺いました。これは本当に楽しかった。気が付けば3カ月間で100人の農家に会っていました。

─調査を通じて何がわかりましたか?

秋田の主力農産物であるお米の販売方法に、大きな課題があることを知りました。一般的に農家が育てたお米は、その品質に関わらず銘柄ごとに一定価格で買い取られます。つまり、こだわりのある農家が育てた高品質なお米と、そうではない普通のお米が一緒くたにブレンドされてスーパーなどの売り場に並んでいるわけです。これでは、どんなにおいしいお米を育ててもその努力が報われません。こだわりのある農家にとっても不本意なことですが、彼らは自分たちのお米をストレートに消費者に届けるルートを持っていませんでした。そこで生まれたのが高品質なお米だけをネットで直販するアイデアです。ただし、これだけではインパクトが不十分です。何かフックになる仕掛けがないかと考えるなかで閃いたのが「トラ男」というネーミングでした。

「トラ男」というのは「トラクターに乗った男前」のこと。「男」って「田んぼに力」と書きますよね。つまり農家こそが真の男で、そんな彼らが育てたお米なら、きっと多くの人が食べたいと思うに違いない、と思ったのです。このコンセプトを元に、心意気を持って高品質なお米を育てている3人の若手農家をトラ男としてスカウトして立ち上げたのが、「トラ男」事業になります。

生産者と消費者とがつながる場所を作りたい

─どのように販路を開拓していったのでしょうか?

東京でのイベントとSNSでの情報発信を通じて少しずつファンを増やしていきました。心がけていたのは、生産者と消費者がつながる場所を作ることです。その成果が実を結び、初年度に販売を予定していたお米は4カ月で完売し、トラ男の三人からも「来年度はもっと販売量を増やそう」という声がすぐに上がりました。僕自身、取扱量を増やしてもっと農家に利益を還元したいと感じてはいましたが、そのために僕が会社員を辞めてこの事業に専念できるかというと、迷いもありました。そんなときに3人から「俺たちはずっと農家だ。武田さんに途中で抜けられたら困る」と告げられます。要するに「腹を括れ」と迫られたわけです。これは本気でやるしかない。会社を辞め、トラ男のプロデュースに専念すると決めました。

それから今日まで、海外での販売、企業とのコラボ、飲食店への卸しなど、さまざまな取り組みを通じて販路を広げてきました。2017年には「お米がお口に入るまでを丸ごとプロデュースする」をコンセプトに、「ANDON」というトラ男のお米を使ったおにぎり屋さんもスタートします。

購入したお米を適切に保存して、正しい水加減でおいしく炊くのは、みなさんが思っている以上に難しいことです。「そんなに違いがあるの?」と信じられない人は、ぜひ一度ANDONのおにぎりを食べてみてください。秋田のお米の真価に驚かされること請け合いです。

企画:森谷 太一、菅野 秀和     写真:中里 楓     取材:立古 和智     協力:おむすびスタンドANDON

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武田昌大さん

株式会社kedama代表、合同会社ANDON共同代表、内閣府地域活性化伝道師。1985年秋田県生まれ。大学卒業後、大手ゲーム会社に勤務する傍ら、若手米農家集団「トラ男」を結成。2011年、ゲーム会社を退職し、株式会社kedamaを設立。米のネット販売サイトtorao.jpとtoraofamily.comを運営する。2015年には古民家を利用した新ビジネス「シェアビレッジ」をスタート。2016年には内閣府が認定する地域活性化伝道師に選ばれる。NHKクローズアップ現代など多数メディアに出演し、全国各地で地方活性化に関する講演活動も行う。

 

●トラ男: http://www.torao.jp/
●トラ男一家 –toraofamily-:http://toraofamily.com/
●シェアビレッジ:http://sharevillage.jp/
●おむすびスタンドANDON:https://andon.shop/

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