資生堂で宣伝・デザインに携わりながら、さまざまなブランドのアートディレクションを手がけてきた成田久さんは、個人のアートディレクターとして、またアーティストとしても活躍してきました。さまざまな役割を軽やかに行き来する成田さんの思考に迫ります。

第2話
個人的な仕事のアートディレクターとして。

資生堂ではできない仕事が幅を広げてくれる。

─成田さんは資生堂以外でも、さまざまなアートディレクションを手がけています。

はじめて本格的なアートディレクションを会社外で手がけたのは、BONNIE PINKのシングル「A Perfect Sky」だったような気がします。以後ワーナーミュージック・ジャパンさんから打診されて、BONNIEをアネッサのキャンペーンに起用したら大ヒットした経緯もあって、いくつかの作品でBONNIEから依頼され続けてきました。ほかにも資生堂のお仕事で出会った後に、資生堂以外の仕事を相談されることもしばしばありました。

─資生堂以外の仕事も積極的に手がける理由は?

資生堂にいるからこそ手がけられる仕事もたくさんありますが、それだけだと、まったく異なるタイプの仕事はやりにくい。クリエイターとしての幅を広げるためには、いろんな仕事をいろんな人たちとご一緒させてもらい、そこで得たものを資生堂の仕事に還元したほうがいい。それに言うまでもなく頼られたら応えたいですしね。

─最近手がけられたお仕事について教えてください。

最近ブレイクしている歌舞伎役者、尾上松也さんが自主公演をされていて、そのポスターやフライヤーを3年くらい前から手がけています。はじめてお引き受けした頃は、今ほどは大ブレイクされていなかったのですが今や時の人ですよね。舞台が好きな僕ですが、まさか歌舞伎役者さんとお仕事できるとは思ってもいませんでした。尾上松也さんだけでなく門下の人たち7~8人を撮らせていただきましたが、歌舞伎役者さんというのはいいものですね。

─俳優さんやモデルさんとは何が違いますか?

佇まいが違います。形が違うというか、俳優さんやモデルさん以上に絵になりやすい。顔の表情筋も、たぶん普通の人とは違うのでしょう。みなさん公演とか練習で疲れているはずなのに、7~8人撮っても1、2時間とすごく速い。

歌舞伎役者さんのように昔のものを引き継いで活動しているのは素敵なことだなと思うし、歌舞伎役者でなければできないビジュアルを創りたかった。そこで「挑む」というタイトルの通り、いかにも「挑む」な「強くてキリッとした男前な感じ」で撮らせてもらいました。その上で、黒、白、赤、金といったトーンで強く仕上げたつもりです。

手がけた仕事が、次なる仕事を呼び込む。

─最近は劇団「はえぎわ」のお仕事もされていますよね。

はえぎわの演出家で脚本家、劇作家でもあるノゾエ征爾さんとは、とある結婚式で偶然に知り合って公演に足を運んだその日に大ファンになりました。その後、トークショーなどでもご一緒させていただいた後に「はえぎわの15周年目に開催される公演のポスターやフライヤーのアートディレクションをお願いしたい」 とノゾエさんから相談され、3回続けて担当させていただいています。

「はえぎわ」って変わった名前じゃないですか。ノゾエさんの演出も万人受けはするもののマニアック。依頼されたときも「はえぎわじゃないとできないビジュアルを創りたい」「絶対にインパクトの強いものを」と言われました。いつも脚本が書き上がっていない段階で、ノゾエさんからお題やイメージした言葉をもらい、それをスタートラインにビジュアル化していきます。

─「ハエのように舞い、牛は笑う」のときは、どんな流れでしたか?

「牛肉にハエ」以外にも、提案はいっぱいしました。「牛丼」とか「焼き肉」とか、思いつく限りアイデアを出します。日々の移動中などに思いついたアイデアを携帯電話なんかでメモしておき「考えごとをする日」に一気にまとめます。ワーッと、10案とか30案を絵にするのです。あまりボツネタはなくて、自分としては「どのあたりの表現がお好みですか」を探るプロセス。エッジの効いた案がいいのか、やや保守的なものがいいのか。そういった匙加減を探ります。

最終的に、この「赤いお肉の上にハエをポンと乗せた案」を選んでくれたのはノゾエさんです。僕も、こういうわかりやすくて強い案がいいと思っていました。でも、はえぎわの変な感じ、ちょっとドキッとする感じは出ていますよね? 僕はこういうのが好きです(笑)。

─はえぎわのアートディレクションを手がけられて評判はいかがですか?

ノゾエさんは気に入ってくれているみたいです。今後の話として「久(キュー)さんもう一歩踏み込んで、衣装とか美術にも関わってみない?」と言ってくださいました。そういったことは、僕がノゾエさんに対して提案したいと思っていたくらいだから、すごく嬉しかった。こういった思いもよらない展開があるから、個人的な仕事はやめらないのですよね。

(企画:池田和助 写真:榊智朗 取材:立古和智)

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成田久

アーティスト、アートディレクター。
1997年多摩美術大学卒業。
1999年東京藝術大学大学院修了。
2013年キュキュキュカンパニー設立 。
2013年NHK大河ドラマ「八重の桜」、NHK東北キャンペーン「ただいま、東北♥」、尾上松也主催歌舞伎「挑む」2013~15年、劇団はえぎわ「ハエのように舞い 牛は笑う」「飛ぶひと」「ゴードンとドーソン」、矢柴俊博一人芝居「ヤッシーナイト2」、ハナエCDジャケット&ミュージックビデオ、ウィリアムス浩子CDジャケットなどのアートディレクションを手がける。展覧会も多数開催。台湾にて個展「衣殖」展開催。「高円宮殿下記念 ローザンヌ・ガラ 2013」、「佐々木三夏バレエアカデミーPerformance2014-15」衣装制作。
雑誌「装苑」にて演劇レビュー連載中。株式会社資生堂 宣伝・デザイン部に所属。

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キュキュキュカンパニー

御徒町に成田久の作品が「見られる! 着られる! 買える! 仕事のオーダーもできる!」販売所兼仕事場、キュキュキュカンパニーを開店中。オリジナルの作品、グッズ、バッグ、書籍などを販売。イラスト、コスチューム、アートディレクションなどのオーダー窓口としてもオープン中。ショップにて「Q画伯の似顔絵師」を不定期に開催中。またイベント「HUB TOKYOvol.7、 vol.8」、「FOR座REST 2015 福島」、「東北・ネパール支援チャリティイベントHope and Love Day2015」に出張似顔絵師として参加。お写真での似顔オーダーも随時受付中。
http://www.cuecuecuecompany.com/

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