資生堂で宣伝・デザインに携わりながら、さまざまなブランドのアートディレクションを手がけてきた成田久さんは、個人のアートディレクターとして、またアーティストとしても活躍してきました。さまざまな役割を軽やかに行き来する成田さんの思考に迫ります。

第3話
アーティストとして。

アーティストとしての自分も大切に。

─アーティスト活動は学生の頃から続けてらしたのですよね。

そうですね。資生堂に入って2年目には再開していました。最近だと2015年の9月に、ギャラリー現から頼まれて行ったのが「人生縫ってきたぜ♥展」です。カラフルな幕間と大きなコスチューム3体を展示したほか、雅楽師にそれを着てもらっての演奏会も催しました。

─成田さんとしては「生活のために創っている」のではなく「創りたいから創っている」わけですよね。

ですね。とはいえ創ったものを手元に置いておきたい欲求はあまりありません。それよりも、いろんな人が大切に持っていてくれるほうが嬉しい。ちなみに僕の作品「ヘンタイ(変なタイ)」をたくさん買ってくれたのがファッションデザイナーの山本寛斎さんで、僕の上司が着けていたのを見かけて電話をくれて、以後仲良くしていただいています。僕のことを知らなくても、作品を通じて知り合えるなんて素敵ですよね。

─デザインを辞めてアーティスト活動に専念しようとは思いませんか?

そんな生き方にも憧れますが(笑)、量産するタイプの仕事は資生堂、個のものはアーティスト活動で、という区分けが自分の中にはあります。まあ簡単にいうと「アーティストでもありたい自分」としては「こういった活動も疎かにはできないな」といった感じでしょうか。

─テキスタイルを使ったアート表現がある一方で、近年はユニークなタッチの似顔絵でも多くの人を喜ばせてきました。

あのタッチは、台湾で開催された展覧会でライブソーイングをするつもりが、ミシンが壊れていて急遽「じゃあ似顔絵でも描くか!」と始めたら想像以上に盛り上がったことに端を発しています。描くことを通じて、初めての人ともコミュニケーションができるのは楽しいですね。人によっては似顔絵をFacebookのアイコンに使ってくれるなどの広がりも生まれています。

呼ばれた先で描くのも面白いですね。福島市民家園で「FOR座REST(フォーザレスト)」が震災を経て5年ぶりに開催されたのですが、前から遊びに行きたいと思っていたら、縁あって「似顔絵を描きに来て」と呼ばれました。ほかにもチャリティーイベントに呼ばれたこともあります。あるジュエリーブランドのイベントでもライブパフォーマンス的に描いたこともあります。

関わるすべての人をハッピーに。

─2014年から参加している「モノマチ」でも似顔絵師として活動されてきました。

そうですね。2015年は例年に比べて少し時間に余裕があったので、モノマチの協会へも顔を出して、これまで以上の地域交流を心がけました。その際「僕はこういう似顔絵を描けるから、参加するお店の絵を全部描いてLINEスタンプにしよう」と提案したら「スタンプラリーの絵にしたい」と言われたのです。こういった活動を通じて自分のことを知ってもらうことにも意義がありますし、みんなが楽しんでくれたらという思いから無償で協力しました。結果として地域が盛り上がってくれたら嬉しいですよね。

─こうして地域を盛り上げていく意義とは?

地域には知らないだけで意外に優れた個がたくさんいます。そういった個がつながっていくと、いろんな大きなことを起こせる可能性が生まれます。箔押し屋さん、ボタン屋さん、家紋屋さん。フラクタルの人たちと仲良くなれたのもモノマチがあったおかげですし、いろんな職種の人たちと、もっと知り合いたい。3日間で10万人以上を動員するイベントですから、まだまだ大きな可能性を秘めていますよね。

─成田さんのアーティストとしての活動スタンスは?

以前は「こうなりたい」「どうやったらなれるか」ばかりを考えて疲弊していましたが、40歳を超えた時点で「自分を認めるしかない」と悟ってからというもの、思いもよらない依頼に恵まれています。だからあまり自分で自分の能力を決めつけなくてもいいのかもしれません。まずは依頼されたものをひとつひとつ丁寧に手がけることでしょうか。……と言いながら、自分で自分を変える必要性も感じていて「もっと変なものを創りたい」という気持ちも共存しているんですよね(笑)。

どちらかというと僕は世の中の人よりも、関わってくれた人に気に入られたいタイプかもしれません。一番身近な人がハッピーなら、まわりの人もハッピーというか。たぶん嫌われるのが嫌いなのでしょう(笑)。だから似顔絵を描いているときは、すごく緊張しています。親御さんの気持ちを思うと、子どもの絵はみんな超カワイク描きたいですしね。

─その周囲への愛が、作品の質を高めるのでしょう。

だといいですね(笑)。ただ僕はどんな仕事でも「キャスティングをして、衣装を選び」をする過程で、絶対にモデルさんをはじめ訴求する対象が素敵に見えるようにしたいし、全力でそうするのが当然だと思って続けてきました。アーティストとしての活動でも、すみずみまで気を配るのは同じことです。これからもそういった姿勢は大切にして続けていきたいですね。

(企画:池田和助 写真:榊智朗 取材:立古和智)

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成田久

アーティスト、アートディレクター。
1997年多摩美術大学卒業。
1999年東京藝術大学大学院修了。
2013年キュキュキュカンパニー設立 。
2013年NHK大河ドラマ「八重の桜」、NHK東北キャンペーン「ただいま、東北♥」、尾上松也主催歌舞伎「挑む」2013~15年、劇団はえぎわ「ハエのように舞い 牛は笑う」「飛ぶひと」「ゴードンとドーソン」、矢柴俊博一人芝居「ヤッシーナイト2」、ハナエCDジャケット&ミュージックビデオ、ウィリアムス浩子CDジャケットなどのアートディレクションを手がける。展覧会も多数開催。台湾にて個展「衣殖」展開催。「高円宮殿下記念 ローザンヌ・ガラ 2013」、「佐々木三夏バレエアカデミーPerformance2014-15」衣装制作。
雑誌「装苑」にて演劇レビュー連載中。株式会社資生堂 宣伝・デザイン部に所属。

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キュキュキュカンパニー

御徒町に成田久の作品が「見られる! 着られる! 買える! 仕事のオーダーもできる!」販売所兼仕事場、キュキュキュカンパニーを開店中。オリジナルの作品、グッズ、バッグ、書籍などを販売。イラスト、コスチューム、アートディレクションなどのオーダー窓口としてもオープン中。ショップにて「Q画伯の似顔絵師」を不定期に開催中。またイベント「HUB TOKYOvol.7、 vol.8」、「FOR座REST 2015 福島」、「東北・ネパール支援チャリティイベントHope and Love Day2015」に出張似顔絵師として参加。お写真での似顔オーダーも随時受付中。
http://www.cuecuecuecompany.com/

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